昨今は古民家がブームです。古民家を改築したカフェやホテルも、大変な人気です。
かくいう私も、東京に在住しながら、昨年京都の町家を購入しリノベーションするという、大胆な行動にでてしまいました。以前泊まった、町家を改装したホテルの心地良さが忘れられなかったからです。
しかし、私のように古民家に魅力を感じたことがきっかけ、という人はそう多くはないでしょう。むしろ、以下のような様々な理由からリノベーションを検討されるかと思います。
レ「新築は値段が高過ぎて手がでない。」
レ「土地が再建築不可(※1)なので、リノベ一択しかない」
レ「実家の古家をどうしたいいか、悩んでいる」
レ「退職するので、これを機に地方の古民家を購入してのんびり暮らしたい」
新築や建て替えよりもコスト高と言われながらも、それでもなぜ古民家リノベーションという選択肢を選んだのか。経験者として、その魅力やデメリット、特に費用面での克服方法を、実例のビフォーアフターとともにお伝えしていきます。
※1:再建築不可とは:建ぺい率やセットバック等の関係でその建物を取り壊すと、同じ場所に新しく建物を建てることができない状態
*目 次
1 新築・建替えを超える⁉ 古民家リノベーションの魅力って?
2 古民家リノベーションのデメリットはどう克服する?
3 事例紹介(建築年数不詳の京町屋、リノベしてみたらビフォーアフター)
4 まとめ
費用面だけからみれば、古民家をリノベするなんてありえない選択肢かもしれません。
しかし、そんなお金の課題をもどうにかして乗り越えたい!という気持ちにさせられるほど、リノベーションされた古民家には以下のような魅力があります。
① 日本家屋が醸し出す趣、心地よさ、免疫力向上
ずばり、日本の歴史と伝統を受け継ぐ古民家に身を置くと、不思議と幸せな気持ちになれるからです。自然素材に囲まれた空間、繊細な格子、太く伸びた梁、柔らかな日差しの入る縁側、庭からの気持ちの良い風…
科学的に言うと、木や土や紙で作られている日本家屋の持つ微生物多様性の環境には、ヒトにとって有害な細菌を排除したり、住む人の免疫力を向上させる効果があるそうです。
「マイクロバイオファーム」という考え方です。
なおこれと正反対なのが、密閉されエアコンで温度管理された室内環境です。
特定の種類のみの微生物の異常繁殖が起こり、感染症拡大やアレルギー疾患の要因になっているようです。
アレルギーで苦しむ方には、自然素材で形成されている家をリノベして住むことは、一考の価値があるのではないでしょうか。
② 税金が安い
固定資産税がかなり安くなります。古民家は建物の資産価値が低いからです。京都で様々な物件を内覧しましたが、固定資産税は年間でも10万円を切る物件が結構多かったと記憶しています。
ただ建物の評価額は「ゼロ」にはなりません。築何十年経っても再建築価格の20%が下限のためですが、木造住宅の場合築20〜25年程度でほぼ下限に達します。
③ 環境に配慮
住宅の取り壊しには大量の廃棄物が発生しますが、リノベーションであれば廃棄物の量を減らすことができ、また廃棄物処理で発生する二酸化炭素も削減できます。
YouTubeなどには、きわめて低予算で古民家を自分たちだけでリノベした、という事例は結構紹介されています。しかし、仕事があり使える時間も限られる自分のような人間には、あまり参考にはなりませんでした。
ここからは、実際の経験をもとに、デメリットをどう克服していったらいいか、4つの対策を紹介します。
デメリット ①「新築よりも費用がかさむ・・・」 → 費用を抑える裏技も紹介!
コスト面から言えば、古家全体をリノベするほうが、古家を解体して建て替えるよりも多くの場合、費用がかさみます。
いくらかかる?
家全体のリフォームには、新築の50~80%ほどの費用がかかると建築士の方が挙げていましたが、確かにこれは私自身の経験にも当てはまります。
渾身の夢ありったけを積み込んだ初回見積金額は、物件購入価格の7割水準!
家もう1件買えるやん!と初めて京町家を購入した後悔が、一瞬頭をよぎりました。
しかし、以下に紹介するような様々な工夫で、最終的には物件購入価格の6割までに抑えることができました。
ここからは、業者からは絶対提案が出てこない内容も含め、対応策を4つ紹介します。
対応策その1)優先度の高いところから手を付ける
断熱性の向上対策と水回りを最新設備にすることが最優先です。家全体を一度に手掛けることが難しい場合には、例えばキッチン→バス・トイレ→屋根・外壁・窓など、時期を見て順番にリフォームしていく方法もあるでしょう。
対応策その2)設備や材料をダウングレードする
一つひとつのコスト削減メリットは小さくとも、設備や部材は何を選ぶかを、全体で積み重ねていくと、かなり効果的なコスト削減になってきます。
・システムキッチン
特に削減効果大なのはシステムキッチンでしょう。同じメーカーでもグレードが複数あります。ショールームに見学に行くと、そのメーカー最上級グレードキッチンがバーンと飾られています。それで見積りするとおそらく300万円は下りません。泣く泣く?グレードを落として再見積すれば、100万単位でコスト削減は可能です。
・部材
部材も同様です。最初は夢いっぱいで、日本家屋の美しさを最大限に生かしたいと、「壁は全部漆喰で」、「天井は杉の木貼りで」、「フローリングは全室無垢板に」、「襖は唐紙を」…などと、希望は尽きません。が、出てきた見積を見て、あまりの予算オーバーに愕然としました。
床・壁材などでは、見た目にはほとんど区別のつかない安価な部材を活用すれば、コストを抑えることが可能です。
例えば写真はビニルクロスですが、見た目は本物の木の部材のようです。ビニルまで落とさずとも、代替品として和紙クロスや木を使用したクロスなど、各メーカーが豊富な種類を取り揃えています。
床材でも写真は塩化ビニルですが、見た目も手触り感もほとんどタイルと見紛うほどでしかもおしゃれです。
実は本物のタイル床は、冬冷たくて素足ではとても歩けません(これは今でも後悔のひとつです)が、塩ビなら冷たくならないので、むしろ冬寒い古民家の水回りの床には相応しいかもしれません。
「せっかく自然素材に囲まれた家を実現したいと思ったのに・・・」という場合には、リビングや寝室など、こだわりたい部屋だけで自然素材の部材を用い、他の部屋は化学素材でコストダウンする方法もあります。
私の場合も、さすがに京町家にビニルクロスはありえないなあと思い、リビングや外壁は漆喰の塗り壁に、その他は和紙クロスとしました。
対応策3) 「施主支給」を活用する
・「施主支給」とは
施主(家を建てる・リノベする人)が自分で設備や建材を購入し、取り付け工事は施工業者に依頼する方法です。
通常、設備・建材といった材料は、施工業者が一括で自社の取引先から手配します。施工業者も商売なので材料の仕入れ値にいくらかの中間マージンを載せた金額で、施主には材料の費用を請求してきます。
そこで施主が自分でコストの安い材料を探してきて調達すれば、コスト削減となるわけです。
施主支給はこうしたコスト削減となるメリットのほか、施工業者側では取引のない業者から、施主自身がこだわりの材料を選んで調達できる、といったメリットもあります。
私も「施主支給」という言葉すら知りませんでしたが、以前に家を建てた際にお世話になった建築士の方に、この方法を教えてもらいました。
・施主支給で使えるサイト
複雑な流通プロセスを簡素化しネットのダイレクト販売により、誰でも同一条件同一価格で購入できる「ワンプライス」でビジネスを展開しています。提供する商品も輸入品も含めセンスの良いものが多く、私は毎回活用しています。
・「施主支給」のデメリット
1 どの施工業者でも応じるとは限らない
施工業者にしてみれば、材料が確実に届くか不確定で、扱ったことのない材料の取り付けへの不安や、さらには材料発注で得られるはずのマージンも稼げないことになります。
特に大手業者は、大量に部材を仕入れてコスト削減を行っているため、自社の取り扱い以外は応じない可能性があります。
施工業者に「施主支給」は可能かを確認しましょう。
2 施主側の手間暇
本来は施工業者にお任せの材料調達を、施主が自身で行うことになるので納期管理や搬入調整も含めて手間暇がかかります。
3 保証
「施主支給」は施工業者の保証の対象外となります。
対応策その4) 補助金を活用する
省エネ・バリアフリー・耐震・子育て支援につながるリフォームには補助金制度が設けられています。
施工業者側も「補助金を活用しましょう」を呼び水に、営業活動を行っていますので、見積りの段階から補助金を活用したら費用がいくら削減になるかまで、計算してくれます。
自分のリノベーションではどんな補助金が利用可能かは、施工業者に教えてもらいましょう。ただ、補助金制度に登録されたリフォーム業者でないと補助金を申請することはできません。
京都の古民家の時は、伝統建築・改築に精通した業者を最優先したため、私自身はこの時は補助金を活用できませんでした。
デメリット② 「寒い・暗い」の克服
1)「寒い」
吉田兼好の徒然草にも「住まいは夏を旨とすべし」とある通り、夏の暑さにはある程度対応できても、古民家の冬の寒さには耐え難いものがあり、必ず対策が必要です。
実は古民家改造ホテルには、最初の京都の町屋改造ホテル宿泊のあとも何件か泊まったのですが、外観は趣深く格好良くても、寒くて寒くて耐えられない!というホテルが2回続きました。電気ストーブをつけてもホットカーペットを入れても全然温かくならないのです。体に堪えます。
断熱材を入れる・床暖房を入れる・窓はサッシに替えるなど、ここはやはり快適さを獲得するために最新の設備の力を借りましょう。こうしたリノベーションは補助金の対象にもなり得ます。
2)「暗い」
コスト高要因とはなりますが、天窓は効果大です。明るいだけでなく、特に冬は暖かい。天窓のほか、写真のように透明なガラスでできている瓦を一部だけ使用する方法もあります。
コストを抑える方法としては、天井にダウンライトをつけることで、古民家の暗さはかなり解消できます。
デメリット③ 古民家の耐震性をどう考える
古民家は「耐震構造」である現代の建物とは構造が全く異なります。突き固めた土の上に石を置
いてその上に柱を立てる方式の「免震構造」で、曲げのしなりにより揺れを受け流す作用となっているのです。
最初、スケルトンとなったリノベ中の工事現場を見学に言った際、石の上にただ柱が立っているのを初めて見て、これで建物が成り立つのか⁉と驚きでした。
水平垂直材のみで構成され、接合部分には金属や接着剤を使用しないという簡単な法則が基本であり、石と木、木と木の摩擦や建物の変形で力を逃がす仕組みです。自然の大きな力には所詮はあがなえないのだ、ということでしょう。
無理にボルト等で締め付けたりすると、無理な力がかかりボルト前後の木材部分から折れていたという例が、先の阪神大震災の時にも見られたそうです。
変形したり傷んだ部分が出てきたら、その部分のみを補修したり入れ替えたりするだけで元に戻せる、というエコな構造なのです。だからこそ、今も残っている古民家は長年にわたって建ち続けてこれたのでしょう。
過去の津波を教訓に、それを克服せんと例えば要塞のような堤防を作ったりしても、自然の巨大な力はやすやすとそれを超えてきたのが、東日本大震災でした。
あえて自然の強大な力を受け入れ、流し、傷んだらそこだけ修繕して復活させるというスタンスは、昨今頻発する大きな自然災害への、ひとつの対応方法なのかもしれません。
百聞は一見に如かずということで、実際に建築年数不詳の京町家をリノベーションしたらどうなったか、外観だけですが写真でご紹介します。


古民家をリノベーションすることは、趣のある家の外観や骨格はそのまま残したうえで、日常生活に必要な設備機能だけを改善し、快適な居住空間を作っていく作業です。
京町家のリノベーションを通して、日本の伝統建築のもつ素晴らしさ、自然との共存の姿勢や持続可能性を体現していることを知り、これからの世の中に必要なことではないかと思うようになりました。
京都でも年間800件(毎日2件ずつです!)の貴重な町屋が解体され、新築住宅や集合住宅などに建て替わっています。しかしその結果、古都として有名なはずのせっかくの街並みが、歯抜けになってきていることが、近年問題視されています。
新築や建替えよりも費用はかかりますが、ここまででご紹介した様々な工夫でコスト高を乗り越えることができれば、出来上がった時の満足感は図り知れません。
古民家とモダンなテイストはとても相性がよく、ステキな空間が実現すること間違いなしです。
環境に配慮した独特の構造という、先人がつないできた過去の歴史と伝統を受け継ぎながら、自分好みの空間を新たに創出してみませんか。
コメント